犬は、その場で体験したことをもとに学んでいきます
しつけを考えるうえで、まず押さえておきたいのが、犬はどのように学ぶのかという視点です。犬も私たちと同じほ乳類なので、記憶や情動、モチベーションに関わる脳のしくみは共通する部分があります。ただ、人と大きく違うのは、言葉や数、時間の概念を人のようには扱えないということです。
つまり、過去を持ち出して説明したり、「明日から頑張ろうね」「将来のために今これをしておこうね」と言ったりしても、犬にはそのまま通じません。犬が学べるのは、その場で起きたこと、その瞬間に体験したことです。だからこそ、トレーニングでは“その行動のあとに何が起きたか”を見る必要があります。
犬の学習パターンは4つだけです
学習心理学では、行動が増えるか減るかは、「よいこと」と「嫌なこと」が「起きる」のか「なくなる」のかで整理できます。犬の学習パターンは複雑に見えても、基本はこの4つです。
- よいことが起きると、その行動は増えやすくなります
- 嫌なことが起きると、その行動は減ることがあります
- よいことが起きなくなると、その行動は減っていきます
- 嫌なことがなくなると、その行動は増えやすくなります
ここでいう「よいこと」「嫌なこと」は、人にとってではなく、犬にとってどう感じられているかで決まります。たとえば、飼い主さまが「コラ」と大きな声を出しても、犬にとっては構ってもらえた体験になっているかもしれません。そこを見誤ると、叱っているつもりが、行動を強めてしまうことがあります。
よいことが起きると、またやる
これはトレーニングで最も使いやすい学習です。決められた場所で排せつしたらご褒美が出る、飼い主さまに注目したらよいことが起きる、落ち着いて待てたらうれしいことがある。こうした体験を重ねると、その行動は自然に増えていきます。
一方で、飼い主さまにとって困る行動でも、犬にとってよいことが起きれば増えてしまいます。たとえば要求吠えのあとに抱っこされると、「吠えると抱っこしてもらえる」と学習しやすくなります。ここは現場でもとても起こりやすいポイントです。
嫌なことが起きると、やめるように見えることがある
いわゆる罰や叱責はこのパターンに入ります。ただし、これをしつけに応用するのは非常に難しく、リスクも高いです。行動を減らすには、強さ、タイミング、頻度という条件がかなり厳密にそろわなければなりません。しかも、その条件を満たしたとしても、犬が混乱したり、別の形で問題が強まったりすることがあります。
たとえばトイレの失敗を叱ると、「ここで排せつしてはいけない」ではなく、「飼い主の前で排せつすると嫌なことが起きる」と学習して、隠れてするようになることがあります。だからこそ、叱るより先に、何を学習させているのかを整理する視点が必要です。
よいことが起きなくなると、やめていく
犬が何かをしても、それによって期待した結果が得られないと、その行動は少しずつ減っていきます。要求吠えに一貫して反応しない、飛びついても相手が離れる、という対応はこの考え方に近いです。
ただし、この方法もただ無視すればよいという話ではありません。犬にとって何が「よいこと」なのかを見極めたうえで、一貫した対応が必要です。途中で反応してしまうと、かえって行動が強まることもあります。
嫌なことがなくなると、またやる
このパターンは、いわゆる問題行動の背景にとても多く見られます。ほかの犬を見て吠えたら相手が離れた、爪切りで暴れたら下ろしてもらえた。こうした体験があると、「その行動をすれば嫌なことがなくなる」と学習しやすくなります。
大切なのは、目の前の行動だけを見るのではなく、そのあとに何が消えているのか、何が回避できているのかを見ることです。そこが見えると、問題行動を“困った癖”ではなく、学習の結果として整理しやすくなります。
押さえておきたいこと
- 犬は数や時間ではなく、その場の体験で学ぶ
- 行動の直後に何が起きたかを見ることが大切
- 叱ることは、思った通りの学習につながらないことが多い
- 飼い主さまにとっての困りごとでも、犬にとっては報酬が出ていることがある
- 問題行動は、学習の積み重ねとして見ると整理しやすくなる
犬の学習パターンを理解すると、目の前の行動に振り回されにくくなります。叱るかどうかを考える前に、その行動は何によって増えているのか、何が消えることで維持されているのかを見ていくことが、トレーナーの土台になります。
監修・運営
SKYWAN! DOG SCHOOL 代表 井原亮。犬を一方的にコントロールするのではなく、飼い主さまが実践しやすい方法をお伝えすることを大切にしています。