カウンセリングの実例①

カウンセリングの実例①|子犬の甘噛みから考える、遊び方と休み方

著者:井原亮(SKYWAN! DOG SCHOOL 代表)

「おもちゃで遊んでいるのに、それを持っている手を噛んできます」
「撫でていると、途中から手を噛み始めます」

今回は、こうした子犬の甘噛みについてのご相談です。

手を噛まれると痛いですし、傷ができれば「このまま噛む犬になってしまうのでは」と心配になるのも自然なことです。飼い主さんとしては、まず噛むのを止めたいと感じるでしょう。

ただ、カウンセリングで確認するのは、噛んだ瞬間だけではありません。どのように遊び、いつ興奮し、どこで休んでいるのか。噛む前後の様子も含めて、普段の生活を伺います。

今回の相談から考えたいのは、甘噛みを止めることだけに目を向けず、遊び方と休み方の両方を教えることです。

子犬の甘噛みへの対応として、おもちゃで遊ぶ、途中で休む、落ち着いた行動を褒める、休む場所をつくるという4つのポイントをまとめた図解
遊び方と休み方のポイント。画像を押すと拡大して確認できます。

まず確認したいのは、噛む前の様子

同じ「手を噛む」という行動でも、そこに至る流れはさまざまです。

遊びの延長で手にじゃれついているのか。撫でられることが嫌になったのか。それとも、遊び続けるうちに興奮が高まり、噛み方が強くなっているのか。

最初はおもちゃで遊べていたのに、途中から手ばかりを狙うようになるのであれば、おもちゃの使い方だけでなく、遊びを続ける長さにも目を向けます。撫でている途中で噛むのであれば、触る場所や触り方、そのときの犬の様子も確認します。

噛む直前に何をしていたか。表情や体の動き、噛む強さが途中で変わっていないか。そうした流れを見ていくと、見直したい関わり方が見えてきます。

一方、おもちゃを取ろうとすると体を固くする、唸るといった様子がある場合は、物を守ろうとしている可能性もあります。遊びの中で起きる甘噛みと同じように扱わず、無理に取り上げないことが大切です。

おもちゃを使っていても、手を噛みやすい遊び方になっていませんか

「おもちゃで遊んでいるのだから、手は噛まないはず」と思うかもしれません。しかし、おもちゃのどこを犬が噛み、人がどこを持っているかによって、遊びやすさは変わります。

短いおもちゃでは、犬が噛む場所と人の手が近くなります。手に向かいやすい子犬には、持ち手と犬が噛む部分との距離を取れる、長さのあるおもちゃが使いやすいことがあります。

大切なのは、人の手を追いかけさせるのではなく、おもちゃそのものに関心を向けることです。

手をひらひら動かして誘ったり、手そのものを遊び相手にしたりすると、子犬には「手を追いかけて噛む遊び」として伝わってしまいます。家族の関わり方もそろえ、おもちゃを噛んで楽しく遊べる経験を重ねていきましょう。

手を狙い始めたときに、さらに動きを大きくして盛り上げる必要はありません。手との距離を保てないほど夢中になっているなら、いったん遊びを区切ります。

ここで教えたいのは、人と遊ぶときは、手ではなくおもちゃを噛むということです。

うまく遊べなかった子犬を責めるのではなく、噛む場所が分かりやすい遊び方を、人が用意していきます。

興奮しきる前に、短い休憩を入れる

遊びが盛り上がるにつれて動きが大きくなり、噛み方が強くなる子犬もいます。その状態になってから止めようとしても、すぐには切り替えられないことがあります。

そこで、まだ落ち着いて人と関われるうちに、遊びの途中へ短い休憩を入れます。

おもちゃの動きを止め、ひと息つく。落ち着いてこちらを見たり、普段できるお座りをしたりしたら、穏やかに褒めて遊びを再開する。「遊ぶ、ひと息つく、また遊ぶ」という流れを経験させていきます。

お座りを何度も指示して、無理に従わせる必要はありません。声が届かないほど夢中になっているなら、次はその状態になる前に休憩を入れましょう。

犬を興奮させることはできても、落ち着くところまで教えられていない場合があります。楽しく遊ぶためには、遊びを続けることだけでなく、途中で休む経験も必要なのです。

「もっと疲れさせる」だけでは、休み方は身につかない

子犬が元気に動き回っていると、「まだ遊び足りないのかな」と考えることもあるでしょう。

もちろん、その犬に合った活動は大切です。ただ、落ち着かないたびに遊びや運動を増やす方法だけでは、活動していない時間の過ごし方を教える機会が少なくなってしまいます。

雨の日や飼い主さんの体調が悪い日など、いつもと同じように遊んだり、散歩したりできない日もあります。そうした日にも一緒に暮らしていくために、静かに過ごすことや、安心できる場所で休むことも経験させたいのです。

遊びを短く区切り、休息と組み合わせる。疲れすぎて落ち着けなくなってから休ませるのではなく、余裕があるうちに活動を終える。

「どれだけ遊ばせるか」と同じように、「どう遊びを終えて、休む時間につなげるか」も考えていきます。

落ち着いているときにこそ、伝えられることがある

犬が噛む、吠える、物を振り回す。そうした行動が起きると、人は犬に注目します。

一方、足元で静かに伏せていたり、自分から座って待っていたりする姿は、見過ごしてしまいがちです。

けれども、そこには「その過ごし方でよいよ」と伝える機会があります。

足元で伏せたら、静かな声で褒める。落ち着いて待っていたら、穏やかに関わる。遊びを再開する前に、できる行動を一つ褒める。

眠っている犬をわざわざ起こす必要はありません。起きていて落ち着いている場面に気づき、その状態を崩さないように関わります。

困った行動が起きたときだけ対応するのではなく、してほしい行動ができているときにも伝える。その積み重ねが、家庭での過ごし方を教えることにつながります。

噛む瞬間より前の、生活の流れを整える

毎晩同じような時間に騒ぎ始めるのであれば、その少し前から過ごし方を見直すこともできます。

落ち着いて取り組めるうちに短い練習をする。遊びを早めに切り上げる。休める場所へ移る。興奮が強くなってから対応するだけでなく、その前の流れを整えていきます。

休む場所として、すでに安心して過ごせるクレートやサークルを使うこともできます。噛んだ罰として閉じ込めるのではなく、遊びを終えたあとに休める場所として、普段から慣らしておきます。

ただし、落ち着かない理由が排泄の必要などにある場合は、まずその必要を満たします。サークルから出したらすぐに遊び始めるのではなく、先に排泄を確認するなど、生活の順序を整えることも役立ちます。

甘噛みの相談であっても、確認するのは噛み方だけではありません。遊び、休息、排泄、人との関わり。その一日の流れの中に、見直せることがあります。

遊び方と休み方の両方を育てる

今回のような甘噛みの相談では、「噛んだらどうするか」という方法だけを探したくなるかもしれません。

しかし、噛む前にどのような遊び方をしていたか、興奮が高まる前に休めていたか、落ち着いているときに褒められていたか。それらも、子犬が人とどう過ごすかに関わっています。

おもちゃを噛んで遊べること。遊びの途中でひと息つけること。何もしていない時間にも、安心して休めること。

子犬に遊び方を教えるのと同じように、休み方も教える。

その両方を育てていくことが、人の手を噛まずに、楽しく安心して一緒に過ごすための土台になります。

※噛まれて傷ができる場合や、噛む強さが増している場合は、我慢して遊びや練習を続けず、専門家へご相談ください。

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